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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)1102号 判決 1962年2月02日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人虎谷杢太郎の上告理由について。

行政裁判所の判決は、行政裁判所が旧憲法下において行政訴訟に関する最高審の裁判所であつたことから、その宣告と同時に確定力を生じ、行政裁判所が廃止された新憲法の下においても、特別の立法がない以上、当事者はもとより裁判所もその判決によつて確定された権利関係に反する主張、判断をなし得ないものと解すべきである。しかして、原判決の確定した事実によれば、上告人は大正一二年三月三一日京都市書記に任命されたが、在職中収賄罪により懲役五月の判決の言渡を受け、服役出所後の昭和九年一〇月一七日退職したので、同年一二月三日京都市長に対し退隠料の請求をしたところ、右請求は上告人が前叙のごとく在職中の犯罪により禁錮以上の刑に処せられたため、京都市有給吏員退隠料、退職給与金、死亡給与金及遺族扶助料条例(明治三二年市公告一八二号)一一条三号の規定に基き退隠料を受ける権利を喪失したとの理由で、昭和一〇年三月一六日却下され、同却下処分は、異議・訴願を経て昭和一二年四月二八日行政裁判所の判決によつて支持されたというのであるから、上告人が退隠料受給資格を有しないことは、右行政裁判所の判決によつて確定し、爾後当事者はもとより裁判所もこれに反する主張、判断をなし得ないものといわなければならない。もつとも、上告人は本訴請求原因の一つとして、右行政裁判所の判決後に制定・公布された復権令(昭和二七年政令一一九号)二条の規定に基き、さきに喪失した退隠料受給資格を回復したと主張していることは記録上明らかであるが、恩赦法一一条は復権の効力はただ将来に向つて生ずるにとどまり、有罪の言渡に基く既成の効果を変更せしめるものでない旨を明定しており、前叙のごとく上告人が収賄罪で懲役五月の刑に処せられたため市条例の定めるところにより退隠料受給資格を喪失したことが、恩赦法一一条のいう既成の効果に該当することは疑を容れないところであるから、右の主張もまた、その理由がないこと明らかである。

されば、原審が行政裁判所の判決は新憲法の下では無視されるもののごとく判示し、かかる見解に立つて上告人の退隠料請求権の有無を判断したことは、法令の解釈を誤つた違法があるといわなければならないが、結論において本訴請求を排斥しているので、原判決は、結局正当たるを失わず、論旨は、叙上に反する独自の見解を前提として原判決の違法をいうに過ぎず、採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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